なぜ新築ではないのか。
なぜシェアハウスなのか。
なぜそれをモデリアが手掛けるのか。
コンセプトを持ったデザイン性の高い賃貸マンションを数々手掛けてきた
モデリアが初めて挑んだシェアハウス「Modelia Colors」。
その誕生までの軌跡を追います。
始めは新築でマンションを建てるつもりだった
ーこの物件はもともとある会社のオフィスだったとのことですが?
郷内
当初はもとのオフィスの建物を壊して更地にしてから新築のマンションを建てようと思って物件を見にいきました。しかし、この物件を見た時にピンときました。築20年と築年数もそれほど経ってなくキレイな状態で、外観のガラス張りの曲線もおもしろいなと。これは取り壊さずに建物を活かしたまま住居にした方がいいのではないかって、企画者として突然閃めいて計画を変更しました。
佐々木
私もオフィスであるより、住居施設の方がこの場所にふさわしいと敷地的な可能性を感じました。
時代が求める再生ビジネス
ー確かに外観も印象的な作りのオフィスでした。最近、もともと倉庫だったり民家だったところを店舗にする事例も街でよく目にするようになりました。
郷内 近年建築資材のコストが高騰してきています。しかも、建物を壊すと大量の燃やすことのできないゴミが発生して地球にもやさしくない。スクラップ&ビルドというのは時代の流れから、経済面と環境面の両面で課題があると捉えられるようになってきました。だから、その現代社会が持っている課題の解決とニーズに応える『再生ビジネス』をやっていこうと、モデリアの第一弾プロジェクトとしてスタートさせました。中古のマンションを購入してそれをリノベーションして販売したことは過去にもやってきています。でも、一棟丸ごとコンバージョンしてやろうというのが今回の趣旨です。
ーリフォームやリノベーションはよく聞く言葉ですが、コンバージョンとは?
佐々木
リフォームやリノベーションは住居から住居、店舗から店舗といった用途はそのままに新しくすることで、コンバージョンというのは既存の躯体を活かして住居から店舗へなど用途を変更することを指します。最近は工事費が上がってきていますから、躯体を活かして再生していこうという機運が高まって、言葉としてもよく使われるようになっていますね。
奥村 いわゆる内装の変更のことではないです。
郷内
用途を変更するというのがポイントです。モデリアは住居が専門ですからオフィスからオフィスではなく、オフィスから住居にするのがミッションになります。
「モノからコト」へ。シェアハウスの可能性
ーモデリアと言えば今まで数多くのマンションを手掛けてきたと思うのですが、今回はなぜシェアハウスだったのでしょうか?
郷内
まずオフィスから住居へコンバージョンする場合、マンションにするにはクリアすべき法的制限が多すぎます。そうなるとコストが高くなり、経済的合理性がなくなってしまう。それがシェアハウスということなら、法的な扱いが変わるのでコストを抑えてコンバージョンが可能になるんですね。モデリアはただカッコいい建物を作るわけでなく、収益を最優先する建物も作りません。その土地が持つポテンシャル、物件ごとのターゲットに合ったデザイン性、確実な収益性といった3つのバランスを重視しています。今回は、その最適解がシェアハウスだったというわけです。初めからシェアハウスありきだったわけではないのです。こういった解の出し方ができるのがモデリアであり、実現できるのは、それを助けてくれる建築家のS.A.A.Oのお二人及びスタッフがいるからなんです。
ー建築家のお二人は今回のシェアハウスをどう位置づけていますか?
佐々木
もともとは欧米で部屋をルームシェアして住んでいるというのが最初だと思うんですけど、日本に入ってきてシェアハウスとなり、形が変化してきています。シェアというのは、例えば一枚のピザを分け合うみたいな“切り離して分ける”といったイメージがあると思いますが、今回のシェアハウスはいろいろなものが集まって積み重なるといった位置づけです。
奥村
私たちの考えるシェアハウスは、モノのデザインからコトのデザインに近いと思います。嗜好の近い人が集まり一体となることで、どんな化学変化が起きるかなと。そのコンバインの感じをデザインにも出せたらと意識しました。
制約がコンバージョンをより難しくする
ーでは、実際に設計していくにあたって、新築とコンバージョンでは発想の仕方や技術的な違いはあるのでしょうか?
奥村
価値の作り方は同じですね。自分たちがどういう方向性に持って行きたいかといったことに関してはどちらも変わりません。
佐々木 ただ新築に比べるとコンバージョンの方が難易度は高いです。
ー一般的には新築の方がゼロから作るので難しく、コンバージョンは元の建物がある分、労力は少なくてすむのかなと思ってしまうのですが。
奥村 既存があるということは、制約もあるわけですからその分、難しくなります。
佐々木
新築だったら自分の思う寸法を自らの考えで作っていけますが、既存のものはもうそこに建ってしまっているわけですから。開けてみるまでわからないってことも多々あります。
オフィス建設時の図面と実物の設計が違った
奥村
オフィス建設当時の図面と実際にあるものが違うということがありました。図面にないものがあったりも。そうなると調査からやり直さないといけないという事態になってしまいました。合法的に、法律を守りながらの調整も必要になってきます。
郷内
全部壊して新築で建てた方がはるかに簡単でした。費やしている時間も過去の新築物件よりも長いですしね。でも、再生ビジネスを達成しようとする企画者、設計者、オーナーの目的と志があるわけです。だから難しくてもやっていこうと思えるんです。ハードルは高いほどやりがいがあります。それがモチベーションになっていますね。